知ってる? 本当は重い 日本の消費税 スェーデンから考える税金の話  麻生首相は「財政再建のために消費税の増税は避けられない、一二%に上げる必要がある」と言い、民主党も「いずれ消費税を上げる」点では一致、マスコミの論調もその方向に流されています。医療界や職員の中にも「国の医療費を増やすには消費税」「嫌だけどしかたがない」などの声も聞かれます。消費税二五%のスウェーデンと比較して「日本の税負担は軽い」と言う人もいます。しかし、それは事実にもとづく議論なのでしょうか? 四〇年以上にわたりスウェーデンを研究してきた竹ア孜さんに話を聞きました。(聞き手 佐久 功記者) 竹ア 孜(たけさきつとむ)さん 1936年、台北生まれ。ストックホルム大学大学院法学部修了。外務省専門調査員(在スウェーデン日本大使館)、ストックホルム大学客員教授、埼玉大学教授などを歴任。現在も一年の半分近くをスウェーデンで暮らす。著書に『スウェーデンの税金は本当に高いのか』『貧困にあえぐ国ニッポンと貧困をなくした国スウェーデン』など。  日本の消費税の負担は、実は軽くないですね。日本ではどんなものにも五%かかりますが、スウェーデンは違います。まず、医療や指定を受けた教育などに消費税はかかりません。新聞、書籍、公共交通などは六%に軽減されています。食料品、ホテルの宿泊料などは一二%。例えばレストランで食べたら二五%かかりますが、食材を買ったら一二%で済みます。 ▼「固定家計費」を見れば…  それに、日本には消費税以外にいろいろな負担がある。年金や健康保険料が重い。サラリーマンの社会保険料は、日本の場合は労使折半ですが、スウェーデンでは企業が全額負担しています。  日本では教育費にお金がかかる。ガン保険などいろんな民間保険に入る。老後やいざという時に不安だから貯金もする。社会保障の水準が低いから、毎月必ず、こういうお金を払わざるをえない。私はこれを「固定家計費」と言っています。  スウェーデンでは教育費は大学まで無料。給食費も高校まで無料です。少人数学級で手厚い教育がされているため塾は必要ない。医療もほぼ無料で、民間保険に入る必要がない。だからガン保険なんてスウェーデンの人は知りません。社会保険料や固定家計費を加えたら、実は日本の方が負担は重いんです。 ▼所得の保障が先  スウェーデンの消費税率は二五%ですが、一度も問題になったことはありません。なぜなら国民に払えるだけの所得があるからです。二五%払っても生活が崩れない。  例えば、国民年金がしっかりしています。年金だけで生活の基本部分をまかなえるような額(月約一三万円。夫婦だと倍額)になっています。別に住宅手当金も支給され、家賃はほとんどまかなえます。医療費もかからない。年金だけで食べていける社会なのです。  失業保険も一年以上もらえます。いま世界的な不況ですが、びくともしていません。職業訓練も充実しています。もし六〇歳すぎて失業したら、国民年金の繰り上げ支給の手続きを行うよう本人に連絡が来ます。  日本では、所得を増やすことは無視して、むしり取ることばかりやっています。だから日本の場合、消費税率アップの良し悪しをいう以前に、政策の順番が狂っているんです。まず国民の所得を増やすことが先です。所得が低い状態で、国民の合意がないまま取ろうとするから問題になるのです。 ▼企業が社会保障費を負担する  スウェーデンは、金鉱が発見されたとか、特別な財源があるわけではありません。予算で一番大なたを振るわれたのが国防費です。国防関係者がぼやくほど減らしました。  企業が社会保険料(雇用主税)を全額負担している理由は「大学まで教育費を無料にして育てた質のいい労働者を、企業は儲けのために使っている。税金で整備したインフラも利用する。だから払うのは当然」という態度を政府がとるからです。企業側は下げてくれと言いますが、払ったらつぶれるような企業なら必要ないという態度です。  このように政府は税金のやりくりをしながら、財源を確保しています。国民にとっては払った税金の六割が国民年金や児童手当金などで還ってきます。さらに、医療も教育も大丈夫。貯金代わりに、国という金庫に預けているようなものです。税に対する安心感があります。だから二五%でも払うのです。 ▼日本は税の使い方も変  日本では、わけのわからない税金の使い方をしています。ムダな公共事業があるし、ムダな人も抱えている。年金財政でも役人が変なところに横流ししているし、地方の介護保険のお金も余っている。また、企業は社会保険料を半分だけしか払っていない。政府が企業に遠慮しているんです。それらを正さないで消費税アップをいうのは、勝手すぎます。  日本では税収が足らないと騒いでいますが、足らないような使い方をしたのは誰なのかと言いたい。反省の声がまったく聞こえてこない。ムダをなくす。これがまず先です。  僕はどうしても税収が足りないなら、今の日本では消費税ではなく所得税を上げるべきだと思う。消費税の表面だけ見て「日本は低い。まだまだ上げられる」というのは屁理屈です。事実を知らないと、政府の言いなりになってしまいがちです。 ▼政治に厳しい目を  なぜスウェーデンでは、こういう社会ができたのか。もともとスウェーデンは貧乏な国でした。二〇世紀初めには、人口三五〇万のうち、一五〇万人がアメリカに移住するほどでした。一人であがいてもどうにもならない、だから団結して強い発言権を持とうと、生協や労働組合をつくりました。その後押しで結成された社民党が政権を握り、今のスウェーデンをつくりました。現在でも九割以上の労働者が労働組合に入り、約半分の世帯が生協に加入しています。投票率は常に八〇%以上。自分たちの払った税金がどう使われるのか、厳しい目を注いでいます。  日本の社会保障をあるべき道に戻すには、政治を変えないといけません。消費税を一二%にも釣り上げるような政権だったら、選挙の時に落とせばいいんです。有権者も少し考え直さないといけないですよ。 選挙投票日に投票所の入口で政策パンフレットを配る各政党(タスキの人たち)。スウェーデンでは選挙でも自由に意見、政策を語るのは当然のこと